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会計人を目指す理由は人それぞれだが、挫折を一つの糧とし、税理士を目指したのが、税理士法人TOTALの代表社員・高橋寿克氏だ。
現在、東京都千代田区と千葉県船橋市に事務所を持つ高橋氏の事務所は、起業家支援をメインコンセプトに、起業家と経営者へのトータルな支援を標榜している。
挫折を経験した人は税理士に向いていると語る高橋氏に事務所の現在、そして未来について語っていただいた。
挫折からスタートした税理士への道
「税理士は、実は挫折した経験がある方に向いている資格なんです。
というと誤解する方もいらっしゃるでしょうが、お客様である中小企業の経営者の方たちは、みな何らかの困難を乗り越えたり、挫折を経験して、その上でご自分で事業をやっていらっしゃいます。そうした経営者の気持ちを理解するためにも、人間の限界や弱さを知る挫折という経験はあってもいいと思いますし、人生にとってもプラスになるのではないでしょうか」こう語るのは税理士の高橋寿克氏。
秋葉原(東京都千代田区)と千葉県船橋市に拠点を持つ税理士法人TOTALの代表社員である。
なぜ「挫折」という言葉が氏の口から飛び出したのかは、氏の歩んできた道程に記されている。
1965年に千葉県船橋市の農家の長男に生まれた高橋氏は、働き者の両親から12代目として後を継いでくれることを期待されていた。農家といっても地元では一番の規模の農家で、実家は「お寺」と呼ばれる程の大きさである。
「10代半ばから病気のために、体調を崩していることがほとんどでした。 男性では私が世界で初めてという珍しい病気で、未だに治療方法も確立されていない状態です。
高校時代はそれなりに勉強もしましたが、体調が良くなかったことも影響して、大学受験には失敗しました」
病気の影響からか大学時代はけっしていい思い出はないと語る高橋氏だが、比較的体調が良かった大学2年からの1年間は司法試験に挑戦した。
約1年間の勉強で択一試験に合格するも、再び体調が悪化し、それ以上勉強を続けることができなくなったという。
「体調が回復していたその1年間は、何かにきちんと挑戦しないといけないと思い、がんばることができたのですが、結果として病気で続けられなかった。だから私が税理士を目指した理由は、きっと簡単に合格できて、ゆっくり楽をして生きていける資格ではないかと考えたからなんです。挫折から消去法で選択したような、けっして人に誇れるような志望動機ではありません。税理士試験をよく知らずに簡単だと思ったことは、実際に受験してみて間違いだったことに気づくのですが(笑)」
日本の会計人~病気を脱し、税理士試験に取り組む~
大学を卒業した高橋氏は、病気という事情もあり就職もままならず、自宅で療養生活を送っていた。
「実際には約2年間、自宅でゴロゴロしていました(笑)。調子が悪かったので就職は出来ないし、健康じゃないから農家の跡継ぎにもなれない。療養しながら、自分の経験してきたことをもとにいろいろな仮説を立て、さまざまな民間療法を試してみました。その結果、病気は治ってしまったんです。素人ながらも一所懸命に考えた仮説のうちの一つが正しかったのでしょうけれど、医学的に証明されている治療法ではありませんから、公には治ったことも認められてはいないようです。もしかしたら、ゆっくりと休んでいたから治ったのかもしれませんね(笑)」
体調が回復した高橋氏は、そこから真剣に税理士試験への挑戦を開始した。
1年間は受験勉強に専念し、5科目合格を目指したが、さすがに勉強時間が追いつかずに3科目を取得。
翌年、残り2科目に挑むが合格は1科目のみ。
「最後の1科目に合格するまで、そこから5年かかりました。最終的に合格できたのは、1998年の本試験です。やはり税理士試験は難しい試験だと痛感させられました」
受験勉強の傍ら、高橋氏は千葉県の会計事務所に5年間、東京都内の事務所に1年間勤務し、実務経験を積んでいった。
「1999年に独立開業したのも、積極的な理由や明確な目標があったからではありません。もともとのスタートがゆっくりと仕事をして、楽をして生きたいというものでしたから、なんとなくその方向に進んだだけです。 独立開業をした当時、こんな事務所を作ろう、あんな業務をやろう、という強い意志も計画もありませんでした。こんないい加減な理由ですから、いま一所懸命に税理士を目指して勉強されている方が読むと、怒るかもしれませんね。ただ、今は税理士は天職だと思っていますし、どんな業務を行い、どんな事務所にしていきたいという明確な意志もあります」
現在、高橋氏が率いる税理士法人TOTALは総スタッフ数30名、関与先は300件弱、2008年は30%増、約100件のお客様が増えるペースで成長しているという。
では一体いつ頃から高橋氏は税理士としての明確な意志を持つようになったのだろうか。
「開業して4~5年目に、それまで採用していた補助的な仕事をお願いするパートタイマーではなく、本格的に事務所の業務を任せるスタッフを採用した頃からでしょうね。もちろん、それまでも成長するために必要な手は打っていましたし、年率20%程度は成長してきていました。ただ、明確にどんな事務所にしていきたいという思いには至っていなかったと思います」
起業家をトータルに支援
では、高橋氏は現在、どんな事務所を作っていこうとしているのだろうか。
「業務としては税務・会計をベースに、起業家、経営者をトータルにサポートしていきたいと考えています。よく、開業したての税理士の方が起業家支援を旗印に展開することがありますが、実際にはスタッフが10名程度に成長すると方向転換してしまうケースがほとんどです。なぜ、方向転換してしまうのか。それは一言で言って儲からないから、効率が悪いからなんです。起業家支援、というとカッコよく聞えますよね。でも、起業したばかりの会社はどんな会社でも中小・零細企業で、もちろんお金はありません。その一方で、会社は出来たてですから、いろいろなことをサポートしないと歩き出せない。すでに長く営業している会社なら当り前に普通にできていることもまだできていなかったり、決っていなかったり、仕組みすらない…。だから、非常に手間がかかり、効率は良くないのが現実です」
冷静に考えれば、高橋氏が言うようにほとんどの起業したばかりの会社は確かに未成熟であり、売上もこれからであろうからお金が無いことも理解できる。なぜ、高橋氏は起業家支援に取り組むのだろうか。
「私たちのコンセプトでもある『あなたと共に成長したい』という思いの通りなんです。私たちは、お客様と一緒に成長したいと考えています。起業した会社が中小企業から、中堅企業へ、そしてできるなら大企業へと成長する過程を、ともに歩んでいきたい。その過程を通じて、お客様も成長するでしょうけれど、事務所のスタッフや私、そして事務所自体としても一緒に成長したい。そう思っています」
実際、300件近い関与先のうち、7割以上が設立5年以内の会社だという事実は、それだけ起業家支援に対して真剣に取り組んでいる、一つの表れだろう。
「税理士法人化する際に、事務所名をTOTALとしたのも、起業家、経営者をトータルに支援したいからです。言い古された感もありますが、ワンストップサービスでなければ、起業家の支援はできません。新たに事業を始められたばかりの方が、税金は税理士、登記は司法書士、許認可は行政書士、といったようにそれぞれの専門家にお願いするなんて現実的じゃないんです。よくネットワークで対応するというやり方をお聞きすることもありますが、私たちは自分たちのグループ内ですべて対応できた方が、より良い起業家支援ができるのではないかと考えています。幸いなことに私の家内が司法書士です。TOTALグループとしては税理士5名、司法書士2名、行政書士4名、CFP1名、さらにIT系のスペシャリストもいますから、起業家の方が必要とする専門サービスにはほとんど対応できると思います」
社内では専門スタッフの養成を進めている高橋氏。氏は決してネットワークが必要ないといっているわけではない。
トータルにサポートするからにはできるだけグループ内に専門家を取り込んでいきたいと考えているのである。
だから同時に弁護士や不動産鑑定士等の士業とのネットワークもきちんと構築を進め、実際に活用しながら起業家支援を進めているのである。
このように業務は起業家支援と言い切る高橋氏だが、それ以外の業務についてはどう考えているのだろうか。
「事務所が一定規模以上になると、例えば業種特化で医療経営に取り組む、また資産税などの業務に特化する、さらにM&Aや組織再編など新たな分野の業務を行う事務所が多いと思います。私たちはそういった業務をやらないといっているのではありません。事務所が目指す方向と、軸足が起業家支援にあり、そのオールマイティーを目指しているのです。実際に300件近いお客様がありますから、お客様の中には医療機関もあって増えていますし、資産税のご依頼もだいぶ多くなりました。事業承継やM&Aといった話しも舞い込んできています。それらの業務にはきちんと対応していますし、対応できるよう私もスタッフも勉強を続けています」