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会計事務所の最新採用事情 優秀な若手に積極投資
日税連の調査でも明らかになっているように税理士業界の高齢化が進んでいる。
後継者問題は多くの所長税理士にとって悩みのタネだ。他事務所への事務所譲渡も有効な選択肢だが、
所内に有望な若手税理士がいるのであれば所員に事業を譲ることも考えられる。
中途採用を優先するイメージが強い業界ではあるものの、中長期的な将来を見据えて若い人材を採用したいと考える事務所は増えている。
優秀な若手を探すのは難しいという声も聞かれる税理士業界の採用事情を確認してみたい。
求められる新しいマッチングの仕組み
一昔前の税理士事務所では、所長税理士が自分より少しだけ若い人材を雇い、その所員とともに事務所を発展させ、所長の引退時にはすべての所員も老後を迎える年齢になっていたというケースは多かった。 しかし、税理士業界にもゴーイングコンサーン(企業継続)の考え方が根付いてきた。 他の業種では当たり前の考え方ではあるが、そもそも税理士法人制度がなかった平成14年以前の税理士事務所は個人経営しか選択肢がなく、他業種ほど企業継続の観念がなじんでいなかったのは歴然たる事実だ。
これが税理士事務所も法人化が可能になったことで、自分の引退後を見据えて若い人材を雇う傾向が強くなってきた。
だが、若手を求める税理士事務所からは「優秀な人材となかなか出会うことができない」(関西の所長税理士)という声が多く挙がっている。 税理士法人の増加に伴って税理士事務所の大規模化の傾向は鮮明になっており、その影響で小規模事務所に人材が来なくなっているという指摘がある。
また、業界の就職事情に詳しい税理士法人TOTALの高橋寿克代表は、
「会計事務所が求める人材と出会えなくなっているのは、”売り手”である求職者が減っていることに一因があると思われます」
と分析する。 ここ数年で徐々に売り手市場の傾向が強まっているという。 税理士業界の求職者減少の証左として、税理士資格の取得を目指す受験生の減少が挙げられる。8月5日~7日に実施されたばかりの平成26年度(第64回)税理士試験の受験申込者数は4万9876人で、前年(5万5332人)から1割減となった。
さらに、前述の関西の税理士は、「若い人や未経験者が税理士事務所への就職を敬遠してしまう現状がある」と指摘する。
税理士事務所への就職を視野に入れる段階で、最近の業界未経験者はインターネットで業界リサーチをすることが多い。 そこで、「会計事務所や給料が安い」「夜遅くまで半ば無理矢理働かされる」といった”経験者”による書き込みは多い。 こうした意見を目にして税理士事務所への就職活動を取りやめてしまうことは十分考えられる。 これに対して、前述の関西の所長税理士は「一部の事務所の職場環境は劣悪なのかもしれないが、それが税理士事務所全体の話だと思われいるのは心外。”ブラック”呼ばわりするのは、初めての就職で運悪く環境がよくない事務所に勤めた人か、あるいは毎回低い給料から始める転職を繰り返す所員ではないか」と現状を嘆く。
「劣悪な職場」のイメージを吹き飛ばせ
税理士事務所業界は職場環境が悪いという意見には、高橋税理士も異議を唱える。
「税理士事務所のほとんどは、長年働けば当然ながら給与は上がっていくし、魅力的な職場であるはず。そもそも税理士事務所は働く人にとって安定してキャリアを積める場所。結婚、出産、配偶者の出張などで引っ越しや休養を余儀なくされる人でも、各地にある税理士事務所は経験者を求めているから再就職しやすい」
需要と供給のバランスが変わってきている状況下で優秀な若手を採用するにはさまざまな工夫が必要だ。優秀な若い人にとって働きやすい環境を用意することは会計事務所の責務であり、業界の悪いイメージを払拭するために不可欠だろう。 高橋税理士の事務所では税理士試験前や出産前の特別休暇の制度を設けている。現在も3人の妊婦が休暇をとっているそうだ。
高橋税理士はさらに、経理業務のIT化で中小企業の経理担当者が減員傾向にあることも会計事務所に影響を及ぼすのではないかと指摘する。
「会計事務所は中小企業で経理を学んだ人材の再就職の受け皿でもあった。今後そうした人材が減ってくることを考えれば、税理士業界がこれまで以上に経理の優秀な人材をゼロから育ってていくべきだと感じています」
税理士事務所の職場環境が全て劣悪であると思い込んでしまう求職者がいるように、特に若手の間で悪いイメージが横行してしまっている。税理士事務所が人材を育てるという心構え、されには会計業界と求職者の双方が幸せになれるようなマッチングの仕組みなどが必要とされている。
中途採用だけを続けてきた所長税理士は、社会人経験のない若手を採用することに躊躇を覚えるかもしれない。 しかし、会計事務所での就業体験(インターンシップ)の場を学生に提供する学校や人材紹介・派遣組織も徐々に出てきた。インターンシップで税理士事務所や税理士法人で社会人としての心構えや税理士事務所業務のイロハを学んだ人材であれば採用への不安は激減する。
“生え抜き”の所員が将来的に事務所を支えてくれる可能性は決して低くない。 誰よりも事務所に愛着を持ってくれるような20・30代から勤め上げた優秀な所員であれば後継者として申し分ないはずだ。