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税務弘報 2015年9月号「わが事務所の事業戦略」に掲載されました(2015.8)

わが事務所の事業戦略

まず初めに先生のご経歴を教えて下さい。

 平成元年に早稲田大学政治経済学部を卒業しました。初めは、司法試験の勉強をしていました。司法試験を始めたのは、学生時代に体を壊してしまって、新卒の機会を逃し、資格がないと生きていけないと思ったからです。
 ところが、司法試験の勉強を続ける体力もなくなってしまいまして、もう少し楽な資格で、生きていくのに困らない資格はないかと思って勉強を始めたのが税理士試験でした。
 ただ、簡単だとおもったら、合格にずいぶんと長く時間がかかってしまいました。そのまま司法試験を続けていたほうが早かったと、後で相当後悔しました(笑)。

ちなみに、税理士試験の勉強期間はどれくらいだったのですか。

 勉強に専念したのが2年。その後、会計事務所に勤務しながら5年。合計で7年ほどかかっています。勉強を始めたのが25歳のころと遅かったので合格は33歳のときです。

ご出身は千葉県だそうですが。

 はい。私は農家の長男で、私で12代目です。
 両親は市内(船橋市)で、20年ほど売上トップの農家で、頑張っていましたが、親からは、何をしてもよいと言われていました。農家を継ぐ体力は、私にはないと思っていましたので、のんびりできる仕事はないかなと考えたんですね。今、全然のんびりしていないですが(笑)。
 事務所は、実家で平成11年の9月に開業しています。最初はお客様がいませんでしたしヒマで、母親には大丈夫か心配されるという状態だったのですが、3年もするとそうはいっても、お客様が増えてきてくれました。
 結婚を機に、親に甘えて家を建ててもらったのですが、家の下が執務室になっていて、8人くらい入ります。当時は8人の税理士事務所といったら、一般的には成功しているといわれていた時代でしたし、そうなるには20年くらいはかかると思ったのですが、開業から2年で達成しました。

なぜ、それほど早い事務所の成長が実現できたのでしょうか。

 会計事務所の勤務時代に仕事をしっかり学べていたのと、人に好かれたことがあったんだろうと思っています。
 はじめ勤務させていただいた事務所は、柳川一美先生の事務所で、そこでは会計のテクニックなどをきちんと教えていただきました、税務を勉強できる事務所は、それなりにあるでしょうが、会計をきちんと教えられる事務所はほとんどありません。今でも少ないのではないでしょうか。
 自分なりに税務の勉強をした上で、当時の4年間は非常に濃く教えてもらって、自由でなおかつ教えてくれるという、とてもすばらしい事務所です。柳川先生は80歳近くになられたかと思いますが、事務所には今も10人くらいスタッフがいらっしゃるのではないでしょうか。
 あと、当時、比較的早くインターネットに気づけたのもプラスだったかと思います。
結局、家の下の執務室も2年でいっぱいになってしまって、農業用倉庫を改造して30人ほど入れるようにしました。
ただ、そこもいっぱいになったのが平成19年頃で、このとき東京に出てきて、税理士法人をつくりました。

千葉ではなく東京を選んだ理由は。

 郊外だと、優秀なスタッフに来てもらうのが大変でした。優秀な女性スタッフは採用できるのですが、優秀な男性スタッフの数をそろえるのが難しかったのです。

「優秀」というのは、税理士資格を持っているということでしょうか。

 なくても構いません。うちが特殊なのは、勉強している人間に資格を取ってもらおう、というスタイルなことです。事務所はもともと、有資格者の優秀な人をとるのが難しい地域でした。地元は、駅から降りてくるサラリーマンは国税庁の税務大学校に行く人と、うちのスタッフしかいないようなところでしたから。
 それで、次は人が採れるところがよいと思って、東京に進出したわけです。実際の場所は、交通のアクセスがよくて千葉に近いところがよいと考えまして、秋葉原駅に決めました。

独立開業時のお話をさらに詳しく教えて下さい。

 勤務時代に会計の技術力は身につけたのですが、それを浸透させるのに時間がかかりました。そのため、自分を周知するのにありとあらゆることをやりました。
 例えば異業種交流会にも行きましたし、銀行回りやDM(ダイレクトメール)も送りましたし、高校時代の同級生にはがきも送りました。当時は若さも時間もあったので、何でもやりましたね。
 若さと時間は、スタート時の特権ですが、これに営業力さえあれば、今でもそれは通用すると思いますね。うちのスタッフで独立していく人もいますが、成功するのは、やはり若くて営業力がある人です。これは間違いないですね。

技術力についての考えは?

 開業初期の段階で成功するかどうかは、営業力が大事ですが、本当に成功するかどうかは、やはり技術力が重要です。営業力だけが強みで、数年すると止まってしまう会計事務所はいくらでもあります。
 営業は慣れてしまうと簡単なんですが、営業力だけでは、人のオペレーションが回らない、技術力がないという問題が起きます。私は技術力を先に仕込んでいただきましたが、これは幸いでした。ある資料を見た瞬間にどこが肝か判断できる、そうした訓練を受けることができた。こうした訓練ができる会計事務所は少ないと思います。

柳川一美税理士事務所で働かれたきっかけは?

 これはたまたまの偶然です。今と違って、当時は情報があまりなかったので、ハローワークで募集したところに行った先が柳川一美税理士事務所でした。今だったら、自分に合っている事務所を調べたり、将来設計を考えて、よい就職先をみつける確率を上げる努力をするのでしょう。でも、それでも絶対ではないですね。
 1つひとつの縁をどうやって活かしていくかが、人生では大切だとおもいますが、柳川先生との出会いはとてもありがたかったですね。

次に、ご事務所の具体的な事業戦略を教えて下さい。

 税理士法人TOTALのキャッチフレーズは「あなたと共に歩み、あなたと共に成長したい」です。お客様に合ったあらゆる成長過程の支援をしていくことを目指していて、お客様の創業から中小企業、中堅企業、事業承継という各ステージ、それから、医療もやれば、資産税も、国際税務も、と何でもやっています。
 スタッフの成長についても、その人に合ったものを適材適所でセレクトしていければ、その人の成長に合わせてステージを用意してあげることができます。これがわれわれの戦略です。
 これは、千葉で開業したときから考えていました。必要に迫られた部分があったんですね。地元では、いきなり何かに「特化してやります」といっても、うまくいきませんから。
 やはり、町の中小税理士事務所の良い点は、「よろず相談所」なところです。仕事の話だけではなくて、お子さんの教育の話から、離婚問題など、中小企業の社長さんのすべての相談に応じてあげられる。それが税理士のおもしろさだと思いますし、感謝していただけますから、この仕事を選んで本当によかったと思っています。

「TOTAL」の名前の由来は何でもやるというところから?

 そうです。あらゆる仕事を受けるし、あらゆることをやるということです。そのために、もう1つの戦略としているのは、スタッフとお客様がいるならその地殻に出店を続けるということです。この2年間でも7店舗出しています。
 スタッフが「このエリアに近い人が多い」となったら、その地域に店舗を出すというわけです。今、京都、大阪、名古屋、札幌出身の人を採用していますが、関東エリア以外もリクエストがあれば出ていきます。スタッフ側からの出店ニーズは結構ありますね。
 今では、集客の仕組みがある程度しっかりとできていますので、決断も早いです。
柳川先生に教えていただいた会計の技術と、その後、自分が身につけた技術をできるだけ標準化して、みんなわかるような仕組みをつくっていけていますので、どこでやってもうまくいくことができる自信はありますね。
 ただ、初期コストや、マーケティングは当然必要ですから、出せるエリアは限られます。残念ながら、この国は衰退していきますから、30年間スタッフを抱えられそうにない地方には初めから支店を出す気はありません。30年後、なくなってしまう町に出したら、その人が不幸です。だから、まずは30年間生き残れる町かどうか判定し、その範囲内に出すつもりです。

出店が増えると経理管理が大変では。

 私が見る必要はもうないです。銀行をイメージしてもらうとわかると思いますが、頭取が各支店の状況を細かくわかることは、求められていません。
 われわれは、士業として専門性・持続性を意識してサービス業としてどうあるかを考えながら、起業として組織性を備えて、組織が大きくなればなるほど、でき上がった組織は強くなる仕組みになっています。全国にきちんと出店が終わったら、そんなに簡単には負けない組織がつくれるはずだという信念のもとに、組織づくりをしています。最初から日本一の総合事務所をつくろう、というのが最大の戦略ですね。
 なお、組織が10人のときは10人のときの、30人のときは30人の、100人のときは100人の、300人のときは300人のときの課題があります。経営者として、そのときどきの課題にアジャストするのが、私の仕事だと思っています。
 ちなみに、今の課題は、機能分化です。
より専門性が高い人材をきちんと配置するということですね。

ご事務所の規模として目標はありますか。

 今、職員数で150人くらいですが、最終的には日本一の総合事務所というと、3000人くらいだと思います。
 現在の日本一の士業事務所は1000人くらいです。今後大手はさらに大きくなるでしょうが、それが3000人くらいだと思います。
 私が生きている間に、あと20年くらいで、われわれも3000人は達成してほしいと思っています。もっとも、その頃は私は引退していると思いますが。

すでに後継者のイメージがある?

 企業ですから、後継者は社内でつくっていきます。自分の子は、20年後ではとても後継者の年代に達せませんし、そもそも税理士をやっているかどうかわかりませんから難しいでしょう。
 社内で管理職として結果を残す人を育てていって、組織を束ねられる人間が後継者になる。もちろんいろんな機会を与えて選抜して、もちろんいろんな機会を与えて選抜して、周りを納得させていかなければならない。普通の企業と同じですね。
そうした人材の育成はすでに始めていますし、選抜するというのは当然言っています。ただ、現在いる社員かどうか、これから入ってくる人かどうかはわかりません。
十数年先の話です。

ところで事務所が軌道に乗ったと思われたときはいつですか。

 常に成長させようと思うと、リスクを背負うこともあって、きちんと前に進むのに楽はできませんので本当に今は苦しいことが多いです。最近でいうと、この2年間で7店舗出したら、やはりきつい。やり過ぎてしまったかもと思うわけですね。
業界的に認めていただけるプレイヤーの1人だと思える一定の地位までは来たと思っていますが、軌道に乗ったかと言われると、乗っていませんね。
おそらく、事務所の規模が職員数で1000人を超えてくるころには軌道に乗ってきたと感じられるのはないでしょうか。そして、そのころには、大体どういう組織になるかというイメージが湧きますし、そのころであれば、業界内の一定の地位を占めたことを利用したビジネスもできるはずです。

規模によって、違ったビジネスの仕方が可能になる?

 はい。1000人くらいの規模になると、東京に限らず各地方の主要都市への出店がおそらく終わっているでしょう。
それぞれのエリアできちんと入を育てて、スタッフを常駐させることができれば、全国でユニバーサルなサービスができるようになります。そうすると、全国でリアルタイムに上がってくる情報を活かしたサービスが提供でき、そのことの付加価値を認めてくれる人たちとビジネスができるようになっているはずです。
そうなると、大企業などのクライアントの比率も当然上がってくるし、より経営も安定します。

これまでの事務所経営で苦労したこともたくさんあったと思います。

 人の教育管理、人をどうやって育てていくかですね。独立して2~3年で、初見の人と会うと、8割がお客様になってくれるほど営業はできるようになったのですが、人を育てるというのは、非常に苦手としていました。
会計事務所は、人の教育をしてこないところがほとんどで、先輩のしていることを見て覚えて、同じようにしなさい、というのが一般的です。私自身もそのように教わってきて、そのときにはそれはおかしいと思ってもいましたし、きちんと社員研修をして、標準化して、組織をつくっていこうと思ったのですが、初めは社員からの反発がありました。
標準化しようと思ってはいても、成長のために営業のほうばかり向いていたわけで社員からすると、うるさいことを言う割に、自分たちのことは見てくれない、という状態になって、社内で反発が強烈に起きました。
東京に進出する直前の8年ほど前の話です。私が営業で外に出ている間に、当時の社内のナンバー2とナンバー3が、社員をワンフロアに集めて、決起集会を始めていました。たまたま営業が早く終わってしまったので、帰ってきたら、仕事をしないで、そうした状況でしたから、「いい加減にしろ」と言って、2人に辞めてもらったことは、今までの一番の修羅場でしたね。
結局、その2人に引っ張られて当時の職員の3分の1くらいが、五月雨式に辞めたときは大変な苦労でした。

この出来事から学んだことは。

 後から思えば、社員のために、もっとわかるように、きちんと説明する力が私には足りなかった。本当に社員のためを思って、より社員のための組織をつくろうと思いました。
1人ひとりに声かけもするし、より試験に受かりやすい仕組みもつくる。より家庭と両立しやすい環境もつくる。社員はそれが目的で入ってきてくれていますので。
女性にとっては、家庭環境とも両立できる家の近くに職場のある仕事がほしい方もいる。子供が病気だと言うことがあれば、普通だと、「みんな忙しいのに、私だけ休んでよいのか」と気兼ねするかもしれませんが、うちの事務所では、安心して行ってきてくださいと言っています。
なお、決起集会を起こした2人については、今は、悪いことをしたと思っています。
この2人は、所長が見てくれないから、よりよくするために、決起したわけで別に悪い人ではありません。
実際、私が営業のほうを向いていたのは、たしかでした。スタッフのためにと、当時から頭では思っていましたが、それを伝える努力をしていなかった。今では伝える努力をよりするようになりましたね。
ちなみに、そのナンバー2とナンバー3は、その後、税理士になって、結婚もして、幸せにやっています。

これだけは負けないという、事務所の強みはありますか?

 これは、スタッフの質です。うちは人柄がよくて、素直で、向上心がある人が多いですが、これは採用のときに、そうした採り方をしてきていますので。
話せば、きちんと人間関係を結んで行ける人か人柄がわかります。個人士業事務所ではなくて、組織でやるのだから自分中心過ぎる人は無理だし、小さくまとまってしまう人も困る。組織は変わっていかなければいけないし、特に成長する組織である以上、変わっていくという前提に耐えうる人でないといけません。一緒にいて楽しい人たちが多いというのが、うちの強みだというところです。

職員の人材育成についての考えをさらに教えてください。

 女性の場合は、家庭との両立がメインテーマになるはずなので、絶対に「勉強してください」とは言いませんが、男性スタッフは20代より30代、30代より40代と育っていってもらいたいので、そうすると、税理士資格は必ず取ってほしいと言っています。
具体的には30歳半ばから40歳手前には取ってほしいですね。ただ、うちは、必ずしも若い子に限って採用しているわけではありません。30歳くらいで入ってくる方もいます。そうすると、資格を取るまでにそれほど時間はありません。
30歳で2科目くらい合格している方が最も多いのですが、働きながら、そこから3科目を取るのはそんなに楽ではないです。ですから3科目を持っていたら大学院へ行ってよいというルールにもしています。もちろん試験で取れるのが一番よいですが、資格を取れるならどちらでも構いません。
一定のルールの下、専門学校の学費や受験費用は、基本的に持っています。大学院も選抜した人間に対しては、全額を持っています。人が育ってくれなければ、困りますので。大学院の費用を全額持ちますという会計事務所は、全国を探してもあまりないと思います。
人に投資し、成長に投資したら、お金は残らない。ですからキャッシュ・フロー的な余裕はありませんし、軌道に乗っていない(笑)。それでもよいというモデルを組んでいるということですね。

先を見据えていらっしゃるということだと思いますが…

そうですね。規模が1000人になると集積性が高まるのはわかっていますので、それまでは会社の利益がゼロでも構いません。その代わりもう少ししたら、今度は上がってきた収益を社員にきちんと還元しなければならない。みんな真面目にやってきていますので。

次に、以下の4つについて、こだわりやルールがあれば教えてください。

(1)顧客
顧客は、一緒に成長していけるお客様を優先しています。
一緒に成長していける、というのは、仕事をして楽しいと思う人です。先ほどの人の採用と一緒です。人柄も見ます。言語化するのが難しいのですが、これは直感でわかります。
また、うちの特徴は、現在だけを考えているのではないことです。獲得したお客様と、親子2代、3代にわたり、30年続く関係でいられればと思っています。最初の段階で嫌なお客さんをとってしまったら、30年間嫌な思いをしなければいけなくなります。ですから、仕事をしていて楽しいと思えるお客様以外はお断りするということにしています。

(2)報酬
報酬は、マーケット平均よりやや安いですが、最安でもありません。この辺りは、市場環境をしっかり見て、お客様に選んでいただける値段で、納得できる値段で設定しています。ただ、価格だけで選んでほしいとは思っていませんので、最安にはしません。
業界平均より少し安いくらいの設定は、短期的には儲からないのですが、最優先は、「共に歩み、共に成長する」ということです。また、1000人規模になれば、それまでと違ったお客様も入ってきますので、儲かるというのは先述したとおりで、現在は戦略上儲からなくてもよいと考えています。

(3)営業
これは一般企業と同じです。時代に合わせて、何でもやる。これだけです。最初の千葉のときは銀行に呼ばれてもないのに行ったりしていましたが、今は逆にありがたいことに、銀行の支店長が向こうから来てくれます。

そういう意味では、今では認知度があるから、仕事がしやすくなって、今の営業担当者は開業時にした苦労は必要なくなりました。

(4)ホームページ
うちでは、税理士事務所としてのホームページは売上への貢献はほとんどないですね。ターゲットが狭ければ狭いほど目を引くのでしょうが、うちはトータルでのサービス提供で、ターゲットが広いですから。
売れているのは個別のサービスのページだけです。そちらのホームページも昔と違って、本気で売るなら1000万円近い投資が必要です。業界のトップでは、ホームページに年間1億円投資している方もいらっしゃいます。これから開業しようという方にとっては、ホームページのハードルは、昔に比べるとはるかに上がってしまっています。

もうすぐ税理士試験が始まります。受験生への労働環境での配慮があるようですね。

 試験前1か月、2か月は理論を覚え込む一番重要な時期です。うちでは、7月から休みやすい環境を整えてあげています。
有休と試験休暇を合わせて、人によっては1か月ほど休むことができます。本番までの1か月、真剣に勉強して、それまでの遅れていた分を少しでも取り戻して、勝負してほしい。
頭を仕事から勉強モードにするのに、10日はかかりますし、受かろうと思ったら、勉強中心の時期が1か月前後くらいはやはり必要です。できるだけ休暇をとりやすい環境をつくってあげられればと思っています。

試験合格後のキャリアプランは?

 適切なキャリアアッププランを用意してあげられるかどうかは、常に考えています。うちでは、お客様の会社設立から中小企業の支援は、それはそれで基礎体力のいる重要な業務で、最初からスタッフはこの業務に当たりますが、そればかりだと飽きてしまうし、付加価値も上がりにくい。
どんどんと中堅企業への成長を支援できる人材になれば、それはそれでよいのですが、それは言うほど簡単ではない。昔から経営コンサルティングは、この業界の課題だと言われていますが、それで結果を出して大きくなって成功している事務所はほとんどありません。 それよりは、例えばうちでは医療クリニックの開業だけでも年間数十件行っています。この後も一定数確実に増えて広がっていくと思います。そうすると、医療系の人材を育てていかなければならない。
それから、相続税です。昨日も資産家のお客様のところへ行ってきましたが、これからはこうした業務も標準化して、各スタッフにやってもらわなければならないと思っています。
また、実家のある千葉と言えば、成田空港に、幕張もあります。いわゆる大企業や外国系の企業に絡む国際業務も受けていかなければいけませんが、その中で、何ができるのか考えています。
組織のよいところは、どこかに必ずはまるところがあることだと思います。コミュニケーションには難があるけれども、専門的に調べものをするのが得意なら、技術をきちんと磨いてもらってチェック者をやってもらえばよい。逆に作業は全く苦手だけど、人に好かれる自信はあるというのであれば、営業をしてもらえばよい。マネージメントをやる人間、営業をやる人間、チェックする人間、作業が得意な人間、バランスがいい人間、いろいろいるわけです。それぞれが背負ってきたバックグラウンドとか、経験は違うわけで、それを生かすことを心がけています。いろんな人がいてよいのです。それぞれのよさを生かして、それぞれに居場所をつくってあげるのが、私の仕事だと思っています。

これから税理士になる若者へのメッセージをお願いします。

 あまり理解されていないと思うのですが、税理士という仕事は、本当によい仕事です。お客様に心から「ありがとう」と言ってもらえる仕事ですので。それも特殊ではない人たちに。
というのも、弁護士ですと、離婚をしている相手方とか、殺人犯に「ありがとう」と言ってもらえるでしょう。われわれは、社長さんとか、お医者とか、資産家とか、社会で一定程度頑張っていて、評価される人に「ありがとう」と言ってもらえる仕事です。こんなよい仕事は、そんなにないでしょう。
お客様のお金に関する情報を教えていただいて、唯一と言っていいくらいの相談相手になれるのです。そこの信頼関係でもって、「ありがとう」と言ってもらえる。社会的にも一定の評価をしてもらって、収益性もそれほど悪くない。さらに、税という国の構造を支えている仕事と言ってよいと思います。
よく、税理士業務は今後なくなるだろうと言われます。確かに、昔手作業で伝票をつくって、そろばんをはじいて、赤青罫線の帳簿をつけていたのが、そろばんが電卓になり、コンピュータになって、手作業が急激になくなっています。しかし、税務に関する知識が求められなくなることはないし、お客様である起業家資産家、医師の相談相手が要らなくなることはありません。
繰り返しになりますが、きちんと技術とコミュニケーションスキルを磨いていけば、これより感謝される、やっていて楽しい仕事はそんなにないと思います。だから、税理士を志した以上、絶対にライセンスは取ってほしい。この業界に入ってきて、勉強しようとした人が、途中でライセンスをあきらめて、無資格番頭ですといってはダメでしょう。
専門家になり、ライセンスを持った有資格者になれば、見えてくる新しい世界があります。自覚も変わるし、社会も違って見えてきます。あきらめるのは、絶対にやめてもらいたいですね。
(6月4日税理士法人TOTAL新宿事務所にて)